『私』だけを見て欲しい
足音を忍ばせて廊下を歩く。
泰の部屋の前で立ち止まる。
静かで物音一つしない。
今夜は早々にゲームを止めたみたいだ。

す…とドアを開けて中に入った。
静かな寝息を立てて眠る我が子。
この子が生まれるまでの1年間、私はとても幸せだった。



別れた夫とは、バイト先で知り合った。
先輩として面倒見が良くて優しかった。
彼女がいたから、憧れみたいに思ってた。
でも…仲間うちで飲み会をした時、彼女とうまくいってないと聞かされて、彼を励ました。

『大丈夫ですよ!素直にゴメン…って謝れば、元のように仲良くなれますって!』

胸の内を隠して言った。
あの人は微笑んで、私が彼女なら単純でいいのにな…と笑った。

複雑だった。
好きな人にそう言われてスゴく悔しくて、飲み会が終わった後、1人で落ち込んだ。

路地裏でこっそり泣いてた。
そこへ、あの人がやって来てーーー

『…どうした?』

…泣いてる理由を聞かれて、答えれなかった。
そしたら、不意に…抱き寄せられて…

『思いきり泣け!胸貸してやるから!』

照れ臭い…と言いながらも、泣かせてくれた
その現場を当時の彼女が見てて、二人はとうとう別れてしまった…。


『私のせいです…!彼女に説明します…!先輩とは、何もないって…!』

完全に片思い。
彼は何もしてない…と伝えるつもりでいたのに…。

『いいよ。何言っても弁解になる…』
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