『私』だけを見て欲しい
独身だったんだ…と今更のように思う。

そもそも年齢すら知らない。
入社した頃からお世話になってる上司だというのに。

「オレもイチオー1人者なんですけどぉー」

お弁当を取り上げられた『れんや』君が呟く。
横取りされたのが、余程気に入らなかったみたい。
ジロリ…とマネージャーを睨んだ。

「お前はまだ親がいるだろ⁉︎ こっちは親なしだから余計に縁がないんだ」

初めて知る事ばかり話す。
今日のマネージャーはどこか変。
自分のことを人前で話すなんて、これまではしなかったのに。

不思議に思って見返した。
自分よりも年上かな…と思ってた人の横顔。
…ご両親とも亡くなってるんだろうか。


「結衣のとこも、お父さん亡くなってるよね⁉︎」

金井ちゃんの声に振り向く。
ニッコリ笑いかけられる。
…もしかして私…今、ガン見してた⁉︎

「う…うん。12年前にね…」

遠い昔みたいな気がする。
泰を産んだばかりの頃で、ショックが隠しきれなかった。

「でも…うちは母が倍以上元気いいから」

今朝もご飯を食べながら、泰にあれこれ言ってた。
泰はメンドくさそうな顔をしながらも、母の言葉を少しだけ耳に入れようとしてた。

「…ならいいじゃないか。親がどちらかでも元気でいてくれれば十分だ」

お弁当を食べ終えたマネージャーが話す。
優しそうに笑ってる。
こんなふうに笑うんだったっけ?…と思った。

「ごちそーさん!美味かった!」
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