『私』だけを見て欲しい
お弁当箱を返される。
指先が少し触れる。
小さく胸が、トクン…と鳴る…。

「あーあ…オレの弁当…」

『れんや』君が嘆く。
マネージャーはどこまでも知らん顔。

「お前が俺の部下を勝手に彼女役なんかに使うからだろ⁉︎ …天誅天誅!」

冗談のように笑ってる。
使われたんじゃない。私が引き受けたんだ。

「あの…マネージャー…」

それは勘違いです…と言いかけた。
でも、次の一言で言えなくなった。

「俺の愛弟子を勝手に使うな!今度使う時は、一言報告してからにしろ」

物腰は柔らかいけど断定的。
そんなふうに言ってもらいたいなんて、私は思ってもないのに…。

「へいへい…分かりましたよ」

『れんや』君の返事もおざなりになる。
こんな言い方されるなんて、きっと彼にとっても理不尽だ。

「じゃ…」

マネージャーが立ち上がる。
その後ろに声かけようとしたら、反対側から呼ばれた。

「佐久ちゃん、今度オレの分の弁当作ってきてよ」

振り向く先に、二重の垂れた目。
年下の『れんや』君が甘えた声で「ねっ?」…と頼む。
子犬みたいな顔して訴えられると弱い。つい聞いてしまいそうになる…

「なに言ってんの蓮也!あんた先週、秘書課の子にも同じこと言ってたじゃない!」

金井ちゃんの言葉で真実がバレる。
『れんや』君は社内のモテ男くん。
私以外にもお弁当を作ってくれそうな子は大勢いるんだ。
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