『私』だけを見て欲しい
「なんで⁉︎ どうして⁉︎ 」

理由が分からないみたい。

「あのね…」

バインダー片手に近寄る。
『れんや』の服から漂ってくる甘い香水の匂い。

(お局様のだ…)

軽く嫉妬してしまう。だって……


「私、子持ちなの。バツイチで子持ち。だから彼女役なんて無理なのよ…!」

…年齢は秘書課のお局様なんかより若いけど、バツ一個ついてるのと、子供がいる時点でアウトでしょ。


「ねっ⁉︎ 分かった⁉︎ だから彼女役頼むなら別の人にして。私じゃすぐにバレバレよ!」

10年もこの会社に勤めてるんだもん、子供がいる事もリコン歴がある事も皆知ってるんだから。

「ええーっ…そんなぁ…」

何を残念がってるんだか知らないけど諦めてね。

「じゃあそういう事で。ご協力ありがとう!」

バインダー振りながら外へ出た。

少し胸がドキドキ言ってる。
若い男性にあんなこと言われたの、久しぶりだから。


「えへっ。ちょっといい気分…」


ニコニコしながら歩き出す。何だか少し楽しい!



その後、各部署を回って頭を下げまくって、なんとか10名増やした。

「ご苦労!じゃあこの人数で予約お願いします」

総務課長に言われる。

「はーい!分かりました!しておきまーす!」
(あんたのおかげで、こっちは午後、仕事が山積みよ!)

そそくさ…と足早に立ち去る。
こんな事に振り回されてる時間はない。
フロアに戻って、残った仕事を片付けないと!
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