『私』だけを見て欲しい
「……もしもし…」

迷った挙句、電話に出た。
マナーモードにしてた電話のバイブは止まらなくて、どうしようもなかった。

「…お母さんの様子はどう?」

いきなりの質問から始まる。
声の主は怒るでもなく、いつもと同じ調子だった。

「今…CT検査を受けてます。意識は昨夜のうちにハッキリしてて……でも、軽いマヒが見られます…」

伸びきらない指先を思い出した。
胸が痛くなる。
こんなことになったのも、全部自分のせいだ。

「お前…今どこにいるんだ⁉︎ 」
「どこって…病院内ですよ…」

決まってるでしょ…と言いたくなる。
院内に鳴り響くインターホンの音。
それと同じものが電話口から聞こえた。


「えっ⁉︎……マネージャー?…今、どこにいるんですか?」

まさか…と思いながら、辺りを見回す。
左右を見た後、後ろを振り返った。


(あっ…!)

電話を握りしめたまま立ち上がる。
水色のパーカーを着た人が走ってくる。
初めて見る私服に戸惑う。
見たくないと思ってた姿が目に入り、嫌が応にも気持ちが高ぶった。


「…探したぞ!」

息を切らす。
どうしてここにいるのか分からない。
昨日の電話の後、私は病院名を教えなかったのに…

「どうして…ここに…?」

呆れるように聞いた。
いつもと違う服装の人を前に、上司とは思えないものがあった。

「夜間の救急指定ここだったから…電話で聞いた」
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