『私』だけを見て欲しい
忘れられない過去
…マネージャーの…
山崎さんの話は、ご家族のことから始まった。

「俺の両親が亡くなったのは、大学４年の時だ。交通事故で、正面衝突だった…」

即死に近い状態だった。
さほど痛みを感じないうちにあの世に行けたのは、不幸中の幸いだった…と話した。

「俺は兄弟もいなくて一人っ子だったから、その後、ずいぶん落ち込んだ。家に帰るのが嫌で、友達の家やら彼女の家やらを泊まり歩いた」

毎日のように続くその日暮らしに疲れた頃、今の会社に就職した。


「…入社した頃は、これでも家から真面目に通ってたもんだぞ⁉︎ 」

自慢にもならないか…と言って笑う。
その横顔が寂しそうで、思わず胸がきゅん…とした。

「…結婚したのは、２５の時だったかな…」

若気の至りだった…と呟いた。
その時の相手とは、たった５年で別れたと言った。

「…嫁が男を作って逃げた。娘が一人いたけど、それも連れてった…」

歯痒そうな顔をしてる。
もしかしたら私の別れた夫も、どこかでそんな話をしてるのかも…と想像した。

「お前が入社してきたのは、確か、その頃だったな…」

３０才になる前だと教えてくれた。

「…じゃあ今は、４０…？」

勤め始めて１０年経つ。山崎さんは照れ臭そうに「オッさんだろ⁉︎ 」と付け加えた。


「お前を見た時、若いな…と思った。新卒かと思ったのに子持ちだと聞いて、まさか…と目を疑った」
「疑ったんですか⁉︎ …子持ちに見えなかった…⁉︎ 」

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