『私』だけを見て欲しい
「見えないよ!まだでんでガキだった…」

23になる前だった。
急に社会に出なくてはいけなくなって、戸惑うことばかりだった…。

「初々しかったな。あの頃の結衣は…」

急に名前で呼ばれて恥ずかしくなる。
昨夜の記憶が蘇る。
好きだと言ってしまった自分が愚かで、情けない…と思った。

「仕事熱心で…覚えるのも早かった。一生懸命で真面目で、さすが主婦だな…って、妙なことで感心ばかりさせられた…」

熱心に指導にしてもらった。
今の私があるのは、ホントにこの人のおかげ。

「私は、いろんな事教われて楽しかったです。マネージャーが……山崎さんがいてくれて…心強いことばかりでした…」

懐かしいことを思い返した。
値札の付け方から、梱包の外し方、電話注文の受け方から何から全て、この人から学んだ…。


「…あの頃からずっと、結衣だけを見てきた…。困ったことが起きたら力になってやろう…って、ずっとそう思ってた…」

たった一人で頑張ってる姿が自分と重なった。
誰かに助けてもらう事が負担になる時が、きっと来るに違いないと思ってた。

「…俺がそうだったからさ…」

嫌な顔一つせず、友人も彼女も泊めてくれた。
それを情けないと思いながらも、頼らなければ生きていけなかった。

「でも…頼ってばかりいる自分に自信がつかなくて…いつも相手の顔色ばかり伺ってた…」

学生時代の彼女と長続きしなかったのは、きっとそのせいだ…と話す。
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