『私』だけを見て欲しい
「俺は何も持ってなかったからな。…自信も金も…根性も…」

家はあるのに、家無しみたいな生活ぶりだった。
居座られることで自由のなくなる者のことを、まともに考えたことはなかった。

「気を遣ってるのは俺の方だけ…という気持ちが強くて、相手を思いやれなかった。だから今は、いろんな意味で後悔してる…」

生き方を間違えたかな…と呟く。
その一言が大きくて、まるで自分のことのように思えた…。

「私も…同じような気持ちになります…」

泰が反抗的な態度を示したり、母に愚痴を聞かされたり、会社で紗世ちゃんにサボられたり、優しい上司に「好きだ…」と言われたり。

「いろんな事が全て重くて…生きる選択を、どこかで間違ったんじゃないか…って思うことあります…」

「何もかもから逃げ出したい…」と呟いた。

今まで決して口にしなかった言葉を、山崎さんは「分かる…」と、受け止めた。

「俺も逃げたくなるよ。何もかも放って、好きに生きたい…って気になる…」

私だけじゃない…と慰める。
心が温もる。
包まれるような優しい言葉に、涙が浮かぶ。

「…どうしてこんな優しくするんですか…私は…何も捨てられないのに…!」

堪らなくなって吐いた。
子供も親もいる私には、この人との時間は選べない。

何かを犠牲にしてまで、自分の人生を変えれない。
いくらこの人のことが好きで大事でも、やはり家族を裏切ることはできないからーーー
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