そのままの君でいて
康介の想い
康介は食事のあと、来月の学会で発表につかう資料をまとめなければいけなかったが、ここ数日、正確には…

ジョーが来てから。

頭が周らない。

そこへ来て 日々の仕事。六本木の患者たちは 様々だ…

康介は、ここで開業して 8年が過ぎようとしていた。

そう。10年まえに 僚介の死。当時 22歳。まだ研修医をしていた。

一日も早く 独立して

愛恵を そばから見ている事が 僚介の為でも、愛恵の為でもあると 考えていた。

研修医期間をさらに2年 大学病院で過ごした。なるべく 愛恵の住まいに近い病院で働いた。

その後 ここに 移り住んだ。

元はと言えば この寂れた診療所は、康介の恩師の一人で やはり この土地で 訳ありの患者たちを世話して来た 老医の跡を康介が 継ぎたいと思ったからだった。

若い時分に 康介自身も なにかあれば ここへ来て 治療をしてもらい 寝床と食事を与えて貰った。

損得ではない。

周りから見たら アホな医者かもしれないけれど… 彼がいなければ 死んでいた患者もたくさんいた…。

康介もそうだったかもしれない。

彼の脇腹には ナイフの傷跡が 今も 痛々しく残る。

六本木で 酔っ払いに絡まれ ケンカの挙げ句に出来た傷だった。

この時ばかりは
さすがに 死ぬ なと 弱気になった。


傷からは 酒も入っていたから 血流が良くなり 血が止まらない。

ドクドクと 血流と心音が 響く…

下手に 医学生の知識が 不安をかきたてた…

その時も、ここの 親父先生に 治してもらった。

自分も こんな医者に なりたい。

それは もし 生きていたら 僚介も同じ事を 考えたのではないかと…思うのだ。


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