無口なDarling+α


「喋んねーし、下向いてるし」


「え、あ、ごめん考え事し・・・っ」


パッと上を向いていい訳をすると、途中で言葉ごと猛の唇に吸い込まれた。


気が付くと、すでに車は猛の家の車庫に入っていた。


薄暗い駐車場で、猛のぬくもりがすぐそこにある。


私は必死に猛の背中に手を伸ばす。


よくこの駐車場で猛とキスをした。


バイクをここに止めて、私をバイクに座らせたまま猛がキスをしてくれた。


それがなんだか懐かしくて、そんな過去の自分が羨ましくて、


キスをしている最中に涙が出てきた。


「澄子?」


「なんでもないよ。なんでもないから、もう一回して」


会えない時間が多くなって、こうやって抱き合うのもすごく貴重な時間になった。


きっと、私が“会いたい”と言えば、猛は会ってくれる。


夜中でも朝でも、きっと猛は会いに来てくれる。


猛は優しいから、私が泣けばきっとそうしてくれる。


だけど、私はそんなことしたくない。


我侭を言って猛を困らせたくないの。


受験の為に別れていたあの時期、そう自分に言い聞かせた。


私の気持ちが猛の負担になる。


頑張る猛に我侭は言わない。


それはまた付き合い始めてからも、私はそう自分に言い聞かせてきたんだ。


レベルの高い大学に入って、成績が落ちないように頑張る猛。


“一緒に住みたいね”そう私が猛に言った日から、猛はアルバイトを増やした。


猛は私の言葉の一つ一つをすごく大切にしてくれるから・・・。


私は軽い気持ちで“会いたい”なんて言わないんだ。


デートをするのは猛の時間が出来たらでいいの。


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