時間
第1章
いつからだろう……。
食事のときに呼びに来る以外、おばあちゃんの部屋に来ることがなくなったのは……。

トントン
「おばあちゃん、ご飯よー。」
ある日の日曜日の夕食どき。
おばあちゃんの部屋のドアをノックし、夕飯の支度ができたことを告げる。

橋本 愛梨 17歳。
今年の4月に高校3年生になり、早2ヶ月が経った。
そんな私には、''食事の支度ができたらおばあちゃんを呼びに行く''という、小さい頃からの日課がある。
小さい頃はおばあちゃん子で、その日課以外でも、おばあちゃんの部屋に毎日のように来ていた。
……でも、いつからか、食事のときに呼びに来る以外、おばあちゃんの部屋に来ることはなくなった。

「……。」
いつも、すぐに返事が返ってくるのに、今日はなぜか返ってこない。
「……おばあちゃん、入るよ?」
不思議に思いながら、私はもう1度ノックし、部屋の中に入る。
「……そうかい、おいしいかい?」
部屋の中に入ると、おばあちゃんは飼っている鳥に話しかけながら餌をあげていた。
何となく話しかけて辛くて、私はただその姿を見つめていた。

おばあちゃんは、私が部屋に来なくなってから、小さい頃から飼っている鳥と過ごす時間が増えた。
昔はよく一緒にお世話をしていたなぁ、と私はぼんやり思い出していた。

「……あら、愛ちゃん。」
おばあちゃんの部屋に入ってから数分が経った頃、おばあちゃんがようやく私に気が付いた。
ボーッとしていた私は、名前を突然呼ばれて少し焦った。
「ごめんねぇ、気が付かなくて……さてと、行こうか。」
おばあちゃんは、しわくちゃな笑顔でそう言うと、椅子に立てかけていた杖を手に取り、ゆっくり、ゆっくり歩きながら部屋を出る。
私は、いつものようにおばあちゃんの後ろを歩く。
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