時間
「……あれ?」
体育館裏に着くと、すでにベンチに座って待っているヒロの姿があった。
部活の練習前なのか、ヒロは練習着だった。
「ごめん、待った?」
「いや、大丈夫。いきなり悪いな。」
「……。」
「……。」
お互いに黙ってしまい、重たい空気が流れる。
とりあえず、私はヒロの隣に座った。
それにしても、ここに来るまでにたくさん人がいたのに、体育館裏となると、私たち以外には誰もいないぁ、と思った。
「……久しぶり、だな。」
重たい沈黙を破ったのはヒロだった。
ちなみに、ヒロというのはニックネームで、本当の名前は弘樹と言う。
「……そうだね。」
私は、足を組み替えながら答える。
「元気にしてた?」
「まぁまぁかな。ヒロは?」
「俺も。っつーか、毎日部活でクッタクタだわ。」
ヒロはサッカー部に入っている。
しかもキャプテンでもあるから、とても大変なのだろう。
「そっか……。」
そして、さっきのような空気が再び流れた。
そして、数分が経った頃、ようやくヒロが口を開いた。
「……話っていうのは、さ。分かってると思うけど、別れ話。」
「……うん、分かってたよ。」
私がそう言うと、突然ヒロが私の前に立ちふさがった。
「……ごめん。」
そして、ヒロは頭を下げてきた。
フられているのに、私はヒロを見て、少し背も伸びて、肌もすごく焼けたなぁ、なんて、そんなことを思っていた。
「……部活、頑張って。バイバイ。」
それだけ言うと、私は校門に向かって歩き出す。
「……あれ?何でだろう……。」
歩きながら、私は涙を流していた。
「……私、好きだったんだなぁ、ヒロのこと……。」
ヒロに対して、もう冷め切っていると、そんなにヒロのことが好きじゃなかったのだと思っていた。
……けど、違う。
ただの強がりだったんだと気付いた。
私の脳裏に、今までの思い出が蘇ってきた。
告白されたときや初めてデートやヒロの試合の応援。
本当は、これからも一緒にいたかった……。
でも、今更後悔してももう遅いね……。
私は、泣いている顔を見られないように持っていたタオルに顔をうずめる。
このとき、私は人生で初めて、失恋を経験した。
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