時間
数週間後、夏休みも終わり、2学期が始まった。
今日も、私はいつものように学校帰りに塾に行き、遅くまで自習をして家に帰ってきた。

「ただいまー。」
私は、靴を脱ぎ、疲れたー、と言いながら、家の中に入る。
「愛梨、おかえりなさい。ちょっと大事な話があるから来なさい。」
神妙な面持ちでお母さんは出迎えたかと思うと、さっさとリビングに引っ込んだ。

何なんだ?と不思議に思いながらリビングに入ると、お父さんとお母さんがソファに座っていた。
心なしか、空気が重い気がする。
「おかえり、愛梨。そこに座りなさい。」
「う、うん……。」
いつもと違う空気に戸惑いながら、お父さんに言われるがままに、向かいのソファに座る。
しばらくの沈黙の後、お父さんが口を開いた。
「ここのとこ、おばあちゃんが入退院を繰り返してるのを知ってるだろ?」
「え、うん。」
確かに、検査入院をして以来、よく入退院を繰り返しているなぁ、と思いながら頷いた。
「正直、おばあちゃんの体は弱くなっていって……医者が言うには……。」
そこまで言って、お父さんは黙る。
「え、何?そこで止めないでよ。お医者さんが言うには……?」
「……ガン、なんだそうだ。しかも、もう長くはないらしい。」
それを聞いたとき、まるでドラマのようだと思った。
だって、身内に起こるなんて思っていなかったから……。
「……おばあちゃんは、このこと知ってるの?」
「知らないわ……それに、言えないわよ……。」
お母さんは涙ぐんでいる。
「でも、おばあちゃんにはまだ言っちゃダメよ?益々元気なくなっちゃうから……。」
お母さんは、鼻をすすりながら言った。
「とにかく、明日から本格的に入院が決まったから。」
「分かった。じゃあ、私部屋行くね。」
「あぁ、疲れてるとこ済まなかったな。ゆっくり休めよ。」
うん、と頷き、私はリビングを出た。

ふと、おばあちゃんの部屋の方を見ると、もう寝ている時間のはずなのに、電気が付いていた。
不思議に思い、そっとドアを開け、覗いてみると、おばあちゃんは、飼っている鳥を手に取り、頭を撫でながら話しかけていた。
そして窓を開け、その鳥を空に放した。

これを見たとき、私は思った。
きっと、おばあちゃんは、もう自分が長くはないことを分かっていると……。
< 9 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop