バゲット慕情
はあ、いえ、でも、自分は。
下手な言葉で会話をつなげようとする園田の、もっさりとして時代遅れなところが、美智子にとって気楽である。
美智子はインターネットを知らない。
携帯電話も持たない。
通信手段は、店と家の固定電話で十分だ。
常連客の中には、レインレインの商品情報や日常記をインターネットで公開したらどうか、と提案する者もある。
笑ってごまかしながらも、冗談じゃないわ、と美智子は思う。
大事な店の情報を不特定多数の人間に向けて発信するなど、薄気味が悪い。
店のパンを知りたければ、自分の足で買いに来て、自分の舌で味わえばいい。
そもそも、お気に入りの店というものは、己の五感を研ぎ澄まして探し出すべきものだ。
インターネットとやらでお手軽に調べられると考えるのが間違っている。