バゲット慕情
「それじゃ、カラオケが終わったら、こっちに来なさい。
五時半には開けてるから」
華は小首をかしげた。
肩に届かない長さの髪が、はらりと揺れる。
もう一生、伸ばしません。
疲れた目で宣言する以前は、背中まで長かった髪だ。
あれは一年ほど前だっただろうか。
レジ台の美智子の肩越しに、ミニキッチンの華と工房の園田の目が合ったようだった。
美智子も工房のほうを振り返る。
「いいわよね、園田くんも。
その日は三人で朝食をとりましょ。
あたしが作るわ」
園田は、のそのそとうなずいた。
華は、はいと返事をして、中途半端な洗い物を再開した。
美智子は、次の話題を切り出したいのを、華の洗い物が一段落するまで待つことにした。