バゲット慕情
「ああ、華ちゃん、お疲れさま。
バゲットのこと、後で園田【そのだ】くんに相談しておくわ」
「ありがとうございます。
お先に失礼します」
華は淡い笑みをつくり、浅く頭を下げて工房へ引っ込んでいった。
アルバイトスタッフには、店の表側ではなく、工房の奥の勝手口から出入りさせている。
「それにしても、バゲットねえ……」
バゲットは、俗に言うフランスパンの一種だ。
大型の棒状で、フランスの一般家庭では、最もよく食されているパンだという。
美智子の営むパン屋では、バゲットを販売していない。
一人暮らしの学生が多いこの町では、バゲットのような大型のパンより、テーブルロールサイズの菓子パンや調理パンのほうが喜ばれる。