バゲット慕情
三
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「て、店長、あの……ノート、どうも、ありがとうございました」
二月二十八日の午後二時半だ。
これから華のバゲットを作り始めようという園田が、美智子に、父のタイガーノートを返した。
「けっこう役に立つでしょ、これ。
コピーはとったの?」
「あ、いえ、はい……」
どっちなのよ。
美智子は呆れ、聞き流した。
どうでもいいところまで突っついているのでは、園田の雇い主は務まらない。
重く湿った曇り空が、朝からずっと続いている。
こんな陰気な日には、喫茶店へ出向いてみようという気も失せるらしい。
今日はまた一段と客が少ない。