バゲット慕情


「普通、フランスパンはパンチをやらないものでしょ?

成形でも、べたべた触りすぎないように注意するっていうのに、パンチ三回は多いんじゃないの?」


 美智子の一般論に、園田はかぶりを振った。


「自分も、そう思って、パンチをせずに、焼いてみました。

家で。

焼き上がりは、つぶれてました。

ボリュームが、しぼんで。

は、発酵時間が長いので、生地が弱ったんです」


「あら、作ってみたのね」


「はい……四回目で、成功しました」


「まあ。四回も焼いてみたの。

そうよね。

華ちゃんのためだものね」


「あ。いえ、そんな、じ、自分は……」


 園田が、ますますしどろもどろになる。


 女はいくつになっても、この手の話が好きだ。

美智子はほくそ笑む。


 とはいえ、今まで園田を焚き付けたことなどない。

華が間もなくいなくなるから、からかってみることができる。

仮に、自分の目の届く範囲で従業員同士が男女交際をしていたら、美智子としては気分が悪い。


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