バゲット慕情


 美智子自身が関係する異性愛や肉欲は、この店に出戻って以来、すっぱりと捨ててしまった。

美智子の子宮は、かつて、幾多の男の欲望をため込み、四人の胎児を殺した悪魔の壺だった。

二十代の終わりに子宮筋腫の悪性化が指摘され、肉腫の切除手術を受けた。

術後の痛みは、美智子に己の浄化を実感させた。

不自由も寂しさもなかった。

自分は女の姿をしていながら女の機能を手放した、ある種の新しい生き物だと思った。

閉経も極端に早かった。


 園田が生地のパンチを行う――手粉を振った台に生地を移し、生地を三つ折りにし、方向を変えて、さらに三つ折りにする。

生地を二十七度の条件下に戻し、再び三十分の発酵。


 合計九十分の一次発酵と三回のパンチが終わると、園田は生地をリーチイン式冷蔵庫にしまった。

成形は明日の朝にやるようだ。


 フランスパン生地を仕込んだことで、普段とは作業の流れが変わったはずなのに、六時閉店、六時十五分シフトアップは守られた。

のそりとした園田だが、職人としての腕は立つのだ。


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