バゲット慕情


 園田は、レインレインにおける四人目の職人だ。

二十歳で専門学校を卒業してから七年間、美智子の片腕として工房に立っている。


「っ、バゲットですか……」


 仕事をしている最中に話しかけると、園田は決まって、一語目を詰まらせる。

「あ」とも「う」ともつかない音が、首が長いために目立つ喉仏をビクリと跳ねさせた。


「そう。卒業祝いに何がいいかって尋ねたら、バゲットって」


「は、華さんらしい、です」


 園田は、パン・オ・ショコラをオーブンに入れた。

パン・オ・ショコラはクロワッサン生地でチョコレートを包んだパンだ。

園田の焼く菓子パンは、味わいにも姿形にも愛らしさと品があって、人気が高い。

たまにタウン誌に取り上げられている。


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