バゲット慕情
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いわゆるフランスパンというものは、使われる生地が同じでも、形と大きさによって種類が分けられる。
日本で最も普及しているのはバタールだ。
四十センチくらいの長さの棒状で、ややずんぐりしている。
華がリクエストしたバゲットは、バタールよりも細くて長い。
バゲットとは、フランス語で「杖」を意味する。
フランスパンは通常、小麦粉、パン酵母、水、塩だけのシンプルな配合で作られる。
皮【クラスト】はバリバリと硬い食感で香ばしく、中身【クラム】は気泡を多く含み、もちもちとして引きが強い。
焼き上がりの長さが六十センチに及ぶバゲットを、一般的な家庭用オーブンで焼くことはできない。
レインレインのオーブンは、もちろんバゲットの焼成に十分な奥行きがあるが、園田には一度も作らせたことがなかった。
彼が毎日焼いているフランスパンは、バゲットより小型のフィセルとベーコンエピだ。