押してダメでも押しますけど?
「今日から社長の秘書を勤めさせて頂きます。太田川麗奈です。」


就業前に集められて紹介されたその人は、ちょっと派手だけど綺麗な人だった。


だが、にっこりと笑って挨拶したあと、彼女の顔は若干引きつった様に見えた。


その理由は、途中入社した私も分かる気がする。



この会社は、ちょっと変わっている。


『好きこそ物の上手なれ』


という使い方が正しいのか正しくないのかよくわからない社訓のせいか、入社時に希望した職に就ける。


だから、この会社には、圧倒的にプグラマーやSEが多い。


そして、対コンピューターには優秀な彼らはの対人スキルは壊滅的なのだ。



何を言ってるのか聞き取れなかったり、絶対に目を合わせてくれなかったり。


普通の企業なら、自分の希望の職種に付けなかったり、苦手なことも仕事もやらなければならなかったりで、改善されたり取り繕えるようになるのだが、ここではそれがない。


そう言う彼らが大半をしめるこの会社は、普通の企業で働いた経験がある人間が戸惑う雰囲気を醸し出している。


仲良くなればみんないい人なのだが、なんせ初対面の印象はよろしくない。


そして、普通の企業ならこれだけの美人が来たならざわつきそうだか、ここではそんなこと起こらない。


男性社員の半分以上は彼女を直視出来てないし、あくびしている人まで居る。


それを見た太田川さんの顔は増々引きつった。


「社長!立川さんはどうなるんですか?」



声をあげたのは、営業の曽根君だ。



「立川さんはしばらく俺に付いてくれる事になったよ。」


答えたのは副社長だった。社長は何だか難しい顔をしたまま黙っている。



「そんなの困ります!!」


曽根君が叫んだ。


「副社長の秘書ってことは、全く会社に居ないじゃないですか!それじゃあ俺らの仕事が回りません!」


曽根君の事がに数少ない事務職と営業職の人たちが頷く。


社長は、SEでもあるので、比較的会社で仕事することも多い。私は社長に何も頼まれていない時は、事務処理や営業の補佐みたいなことをしている。


一方、副社長はほとんど会社に居ない。その副社長に私がついて行ったら、事務がまわらなくなるということだ。


「じゃあ、立川さんは俺が外に行く時は置いていく事にする。

 ただ、スケジュールの調整と会議に必要な資料の作成はお願いしたい。

 これでいいか?」


「はい。」


私も頷いた。


「じゃあ、解散!」



こうして、私の社長秘書じゃない日々が始まった。






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