押してダメでも押しますけど?
今日も社内の空気は最悪だ。


それでも、気にしない様に仕事に打ち込んでいると副社長に声をかけられた。


「立川さん、今からS.A.Sに打ち合わせに行くんだけど一緒に来てくれる?」


「え?S.A.Sですか?」


「そう。」


「いいですけど、どうしてですか?」


S.A.Sは今度うちのゲームとコラボするアニメの制作会社だ。


「立川さん、『魔法戦士リノア』好きだって言ってなかったっけ?」


「確かに、好きでしたけど・・・」


「なら、来てよ。正直俺にはさっぱりわからなくってさ。ファンだったって子が居た方が打ち合わせが盛り上がるから。」


確かに、副社長の言う通りかもしれない。


『魔法戦士リノア』は私が小学校の時に放送されていたアニメで、当時私はこのアニメが大好きだった。


毎週必ず見ていたし、録画もしていた。


ちょっと行ってみたい・・・



何より、このピリピリ感から抜け出したい。


「あ、でも、私よりりっちゃんの方がいいんじゃないんですか?」


『りっちゃん』こと岩倉律はうちでも数少ない女性のプログラマーの一人で、コラボするゲームの担当者でもある。


私より2歳下だけど、世代は変わらないからきっと『魔法戦士リノア』も知っているだろう。


行きたいのは山々だが、彼女の方が適任に思えた。


「だって、どうする岩倉さん。」


りっちゃんは、肩まである黒いさらさらのストレート髪で、クリクリの瞳に黒縁メガネをかけている。


黙っていれば、中学生でも大丈夫なほど幼い容姿のかわいいかわいい女の子だ。


そのりっちゃんが言った。


「いえ、私は『ロボット戦士』の方が好きでしたから。遠慮しときます。」


そうだった。彼女はこんなキャラだった。


そして、彼女を打ち合わせに連れて行けば、向こうの人に『魔法戦士リノアはご存知ですか?』なんて聞かれても、さっきの台詞と同じことを即答してしまうような子だった。



無言の副社長がこちらを見て来る。


「お供させていただきます。」


「じゃあ、10分後に出発するから、宜しく。」


私は、打ち合わせに必要な書類を用意した。

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