押してダメでも押しますけど?
「はぁー」


太田川さんが出ていって、どこからともなくため息が溢れた。



緊張感に包まれていた社内の雰囲気が一気に緩む。




「立川さーん、コーヒーお願い。」



さっきの冷たい表情はどこえやら、社長の緩みきった声が聞こえた。



その声を聞いた途端、さっきの怒りが戻ってきた。



そうだった、この人、私の胸を貧相だって言ったんだ・・・



直接、貧相だと言われたわけじゃないが、あの流れだと、言われたも同然だ。




「喉が渇いたなら、ビルを出てすぐコンビニがありますよ。」



思いのほか低い声が出たと思う。


社長は自分でコーヒーを入れられない。



「えっ?!」



驚いて顔を上げた社長と目があう。



「下に、コンビニありますよ。」



笑顔で言ったみたが、目は笑っていない自身がある。



「えーっと・・・」



「まぁ、さっきの発言はセクハラだったからな。」



戸惑う社長に、副社長が言った。



私は無言で頷いた。



「あれは、俺が貧相って言ったんじゃない!!」


慌てて弁解する社長。



「太田川さんは胸の事だとは言いませんでした。」



「・・・・それは」



「この話についてこれ以上社長と議論するつもりはありません。

 コーヒーはご自分でなんとかして下さい。

 それと、みんなに頼まれた仕事がいくつかありますので、社長の専属に戻るのは待って頂けますか?」



「え?」



「あ、それ、俺からもお願い。S.A.Sとの打ち合わせはどうしても立川さんに同行して欲しいから、社長の専属に戻すのはちょっと待って。」


「あ、すいません。俺らからもお願いします。」



横から口々に言われて、社長の顔は不服そうだ。



「お前ら、自分の仕事くらい自分でしろよな・・・」



そう言った社長に、副社長が反論する。



「いつも、打ち合わせに行きたくないだの何だの言って、立川さんを困らせてるやつが何言ってんだ・・・」



「・・・・・」



そう言われると社長は何も言えないらしい。


黙って私の方を見て来たが、先ほどのことで腹を立てていた私は、そんな社長を無視してやった。
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