押してダメでも押しますけど?
社長と和解できたものの、社長専属の秘書に戻るのはもう少し先になる。


社長は、そのことが不服らしい。



「何で、副社長の打ち合わせには同行するのに俺は一人で行かなきゃならなんだよ・・・」



「仕方がないだろ?S.A.Sの件については、立川さんはもう立派な担当者だ。

 途中で放棄するわけにはいかないだろう?」



副社長があきれ顔で言った。



「じゃあ、S.A.Sとの打ち合わせ以外は俺の秘書でいいじゃないか!!」



「だから、他の奴が頼んだ仕事が残ってる。大体、この状況を作ったのはお前だろ?

 いい加減諦めろ!!」



「嫌だ!今日の打ち合わせには絶対に立川さんに一緒に来てもらう!!」


駄々っ子のような社長に、副社長は頭を抱えた。



「仕方ない、今日だけだぞ!」


「わかってる!」



どうやら、今日、社長に同行するのが私の決定したようだ。私の意思は完全無視されて。


まぁ、これも仕事だから仕方ないのか・・・



そうため息を付いてると、隣から声が聞こえた。



「モッテモテですね〜」




その声の主は、岡林つぐみ、24歳。


ライトブラウンの髪を綺麗に巻いて、つけ睫毛もばっちりフルメイク。いつもミニスカートの彼女はこの会社では珍しいタイプだ。


でも、その中身は極度の乙ゲーオタクだ。


乙ゲーとは、女性主人公が色んな男性キャラクターと恋をするというゲームのこと。


彼女が、その趣味を生かして企画立案してキャラクターデザインまで手がけた乙ゲーは大ヒットし、大手ゲーム会社からゲームソフト化の話が来ている。



「つぐみちゃん、その言い方、止めて。恥ずかしいから。」


「えー、でもでもイケメン二人に取り合いされるなんて〜かなりの萌えシチュエーションじゃないですかぁ??」



確かにイケメン2人に取り合いされている。


イケメンの片方はクール系(腹黒ドS)で、もう片方は甘い系(重度のオタクで我が侭)だけど確かに取り合いされている。


業務上で。



乙ゲーオタクの彼女からすれが、この状況は萌えらしい。



が、私は、その萌えシチュエーションで勝手に決まった外出で今日の残業が決定した。

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