押してダメでも押しますけど?
「立川さーん、いーこう!!」


「・・・・・・」


打ち合わせに出かけなければならない時間になると、社長が声をかけてきた。


小学生が、友達を遊びに誘うようなテンションにドン引きしてしまう。


「しゃ、社長?どうなさったんですか?」


「え?何が??」


「・・・いえ。何でもありません。」



社長のテンションがおかしい。そもそも打ち合わせに文句も言わずに行くなんて珍しすぎる。



不思議に思いつつ準備をした。


「いってきまーす。」


みんなに声をかけて会社を出る。


みんなも社長のテンションの高さに苦笑いだ。



「じゃあ、行こう!」


社長は、そう言って私の手を握った。


「え?社長?!」


突然、握られたてに心臓がドキドキを通り越してバクバクする。


戸惑う私を気に留めるふうでもなくどんどん進んで行く。


「社長!!」


「何?」



私の呼びかけに社長が振り返った。


「あの・・・手が・・・」



「手?」


社長が不思議そうに首を傾げた。



何のことか、本当にわかっていないようにも見えるし、とぼけている様にも見える。



「・・・・いえ、何でもありません。」


私がそう言うと、社長は嬉しそうに笑った。


「・・・・・」



その笑顔を見て、私が戸惑っているのを分かってとぼけていたのだと悟ったが、あまりに嬉しそうなので何も言えなくなった。


この人のこの笑顔はずるい。



「じゃあ、行こう!」


そう言って歩き始めた。


私は、心臓がバクバクしたまま付いて行くことしか出来なかった。



タクシーに乗っても社長の手が放されることはない。


私はいつもより近い距離感に緊張していたが、社長は、それを気にする事なくタクシーに乗って5分もしないうちに寝てしまった。



寝るんかい!!



思わず心の中でツッコんだ。



人の事をドキドキさせといてマイペースすぎる・・・



社長が寝てしまったので、そっと手を解こうとすると、逆にギュッと強く握られた。


予期せぬことに、胸がドキンと跳ねる。



「社長?」



起きてるのかと、声をかけたが社長は目を閉じたまま動かない。




狸寝入りの様にも思えたが、手を放すのは諦めた。


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