押してダメでも押しますけど?
「ひゃあっ!」


突然のことに変な声が出る。


自分の顔が耳まで赤くなっているのがわかる。


社長を見ると意地悪そうに笑っている。



「俺さ、恋愛経験ないから、駆け引きとか出来ないんだよね。」


「手、放して下さい」


「だからさ、一緒に暮らすと、立川さんが好きって感情を抑えきれなくなると思うんだ。」


「・・・・」



何、恥ずかしいとこ言ってんだこの人は。



「でも、立川さんが俺の気持ちを知らなかったら、そういう俺の行動に戸惑うと思うんだ。

 例えば、手を握ったり。」


そう言って、私の手を握っている手に力を込める。


「例えば、近づいたり。」



今度は、顔を近づけて来た。


「ちょっと社長?!



社長の肩を押して、それを妨げる。



「一緒に暮らしてるから、ちょっと理性が飛んで、軽い気持ちで手を出そうとしてると思われたくないんだ。」



社長の肩を押す私の手に、社長が空いている方の手を重ねる。



両方の手を握られた私は、逃げる事が出来ない。



「むしろ、逆だから。

 軽い気持ちで手を出そうとしてるんじゃない。むしろ、立川さんのことが好きだから、必死に理性で抑えてるんだ。」


社長の綺麗な顔が至近距離で私を見つめる。



「俺は立川さんの事が好きだよ。ただの上司と部下の関係を壊したくて、強引なことしたけど、君が嫌がることはしないから・・・だから、2週間だけ俺のソフレになってよ。」


真剣な顔で懇願され、嫌だと言いたいはずなのに何も言う事は出来ない。


「と、とりあえず、手放してください。」


やっとのことでそれだけ言うと、社長はすんなり手を放してくれた。


「じゃあさ、契約書作ろうよ!」


「契約書ですか?」



まだ体が熱い私と違って、平然と話す社長。


「そう。違反したら、即契約解除ってことで。

 ちょっと待ってて何か書くもの持って来るからさ〜。」



そう言って席を立った。







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