押してダメでも押しますけど?
社長が歯を磨いている間、これから一緒に寝るのだと思うと、否、一緒に寝るのではないが、それでもやっぱり落ち着かない。



「落ち着け〜落ち着け〜」


そう言って自分に言い聞かせる。



「ぷっ」



小さく吹き出す音がして、慌ててそちらを見ると、笑いを堪える社長の姿が。


「いつから見てたんですか?」


「ごめん、つい面白くて。」



醜態をさらして顔を赤くしていると、社長は私の腕を引っ張った。



「さぁ、寝よう。」



部屋を暗くして、リビングの端に置かれたベットへと導かれる。



社長がベットに入って、私はベットの横に置かれた椅子に座った。


「手、握ってよ。」


社長の表情が読み取れない。


私は、無言で社長の手を握った。



「俺さ、本当に恋愛経験なくてさ。

 いつも、相手に告白されて付き合って、何だかよく分からないままに振られちゃうんだ。」



暗い部屋の中、社長の声以外聞こえない。




「だから、押してダメなら引いてみろってあるだろ?あれが出来ないんだ。

 押してダメでも押しちゃうんだよね〜。」



「小学生みたいですね」



「それ誠司にも言われた。

 だからさ、立川さんを困らせたくないから、仕事中は口説かない。今まで通り仕事するから。」


「何ですか、それ。」



「仕事中に口説いてたら仕事にならないだろ?だから、仕事中は今まで通りにするけど、何もなかったことにしないでってこと。」


「・・・・」


「これでも、好きだって言う時は緊張したんだから。とりあえず、その事は忘れないで。」



「・・・・はい。」






それから沈黙が流れ、社長から規則正しい寝息が聞こえ始めた。



10分ほど待って、寝ているのを確信して社長の手を放す。




自分に与えられた部屋に戻って、ベットにもぐり込む。



自分のベットより明らかに寝心地のよいフカフカベットに、今日の疲れが吸い取られる気がした。





「社長が私の事好きだなんて・・・考えもしなかった。」



小さく呟いた独り言もフカフカベットに吸い込まれる。




絶対に寝れないと思ったのに、いろいろな事がありすぎて疲れたのか、それとも私の神経が図太いのか、それともベットの寝心地のせいか簡単に意識を手放した。



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