押してダメでも押しますけど?
社長から貰った合鍵で、鍵を開ける。


「ただ今帰りました。」


玄関で声をかけるも返答はない。


そぉーっとリビングに行くと、社長はパソコンに向っていた。多分仕事をしているのだろう。


声をかけるべきか悩んだが、帰って来たのを知らせないのも失礼な気がして、声をかける。


「ただ今帰りました。」


その声に、社長がこっちを向いた。


「あぁ、おかえり。」


一人暮らしを始めて10年以上経つ。普段は言われることがない、その台詞に心が温かくなる。



「女子会は楽しかった?」


笑顔で問われ、からかわれて疲れたとは言えまい。



「はい。ぼちぼちです。」


「ぼちぼちって。なんだそりゃ。」


クスクスと笑われ、恥ずかしい。


社長のせいからかわれたのに、笑われるなんて!!



「飲んで来たってことは、もう食事も済ませたんだよね?」


「はい。もしかして、社長はまだですか?」



今日は、接待は入っていなかったはずだ。



「うん。」


「すいません!帰ってくる時に何がいるかお聞きすれば良かったですね。」



帰って来る事に頭が一杯で、そこまで気が回らなかった。



今朝見た感じでは夕食になりそうなものはなかったはずだ。




「いいよ。夕食なら、ちゃんとあるから。」




そう言って、社長はキッチンへ向った。



「立川さんも食べる?」



そう言う社長の手には。コーンフレークの袋と、牛乳、スプーン、そしてラーメン鉢。



「・・・・ちょっと待って下さい。」


嫌な予感しかしない。


「何?」


「もしかして、それ夕食ですか?」


「そうだけど?変かな?」


変だよ!


「え?だって、特定保健用食品だよ?」


それがどうした!


「社長・・・」


「何?」


怒られると思ったのか、社長が身構える。


「オムライス、食べたくないですか?」


「コンビニ弁当好きじゃない。」


「・・・・コンビニ弁当じゃありません。」


「え?作ってくれるの?」


社長の顔がパッと明るくなる。


それを見て、無言で頷いた。


「食べたい!」


「じゃあ、シャワーでも浴びててください。」


「了解です!」


社長は敬礼するとスキップでもしそうな足取りでバスルームへと向った。
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