押してダメでも押しますけど?
キッチンにフライパンがあるのを確認してから、外へ出る。


さっき通ったばかりの道を引き返して、最寄りのコンビにへと向った。


コンビニで、卵とパックのご飯、ケッチャップ、ベーコン、玉ねぎ、油を買う。


急いでマンションに戻ると社長はまだバスルームにいるようだ。



玉ねぎをみじん切りしていると、社長が出て来た。


首にタオルをかけ、その髪は濡れたままだ。


普段は見ない姿が恥ずかしくて思わず目を背けた。



「もしかして、コンビニ言ってた?」


「はい。あ、でも、オムライスを買ったわけじゃありませんから。」



不機嫌な声で問われて、弁解すると、社長は増々不機嫌になった。



「そんなこと心配してるんじゃないよ。買い物に行くなら、一緒に行ったのに」


『危ないだろ?』と付け足され、『さっき一人で帰って来たばかりだし、コンビ二に行くくらい大丈夫です』とは言えなかった。


「すいません。今度は声をかけますから。

 社長は髪を乾かして来て下さい。」


「絶対な。」



私が謝ると、社長はまだ不服そうだったが素直に髪を乾かしに行った。


それから黙々と作っていると、社長が戻って来た。


隣に立って、私の手元をずっと眺めている。


「・・・社長?」


「何?」


「気が散るので、座って待ってて貰えますか?」


「ん、嫌。」


「・・・・・」



社長のプレシャーに耐える事10分。オムライスが出来上がった。



特に、卵で包む時のプレッシャーが半端なかったが、まぁまぁの出来栄えだと思う。



「どうぞ。」



テーブルについて待つ社長の前に差し出すと、社長はキラキラした目で、オムライスを眺めた。


「ケチャップでハート描いて。」


「ご自分でお描きください。」


「それ、イタい。」


「アラサーの女が描いても痛いですから、社長が描いても大差ありません。」


「大差あると思う。」


仕方なく、ケチャップを手にとり、ハートを描く・・・と見せかけて狐を描いた。



「凄い!!狐だ!!」


「・・・・」


30歳、会社社長。オムライスに狐を描かれて喜ぶ。
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