押してダメでも押しますけど?
『うまいうまい』と子どもの様にオムライスを頬張る社長を見ているのが恥ずかしくなった私は、シャワーを浴びる事にした。


社長に声をかけてから、バスルームへと向かう。


恋人でもない異性の部屋でバスルームを借りるというのは恥ずかしいので、手早くすませる。


髪も乾かして、キッチンへ戻ると、社長がオムライスを眺めていた。


「社長?」


もしかして、さっき美味しそうに食べていたのは演技で、本当は口にあわなかったのだろうかと不安になり近づいて、オムライスを見て固まった。


綺麗に狐の形が残ったままのオムライス。


それを眺める社長。


「・・・・社長、何やってんですか?」


嫌な予感がする。



「うーん、だって勿体ないと思って。」



只今、22時を過ぎたところ。明日は仕事。優雅にオムライスを眺めている場合じゃない。


「また、作りますから、それ早く食べて下さい。」


「え?ホント??」


「はい。」


「じゃあ、勿体ないけど食べるわ。」


そう言って、狐を崩した。


スプーンを入れる瞬間、小さな声で『狐、ゴメン』と呟いたのが可愛くて笑ってしまった。


「しかしさぁ、立川さんってすごいよね。」


「何がですか?」


「だって。俺の、三大欲求のうちの2つを満たしてくれるし。」


「はぁ??!」


「え?知らないの?三大欲求。睡眠欲と食欲とせ「それ以上言ったら、明日からの夕食は来コーンフレークに逆戻りですよ。」」



「・・・・それは嫌だ。」


1分前に、社長を可愛いと思った自分を消したい。


「俺としてはさぁ、三大欲求のすべてを立川さんに任せたい所だけど、立川さんの料理が食べたいから、今は我慢するよ。」


「・・・社長、それ、完璧なセクハラですよ」


「えぇ?!俺、立川さんのこと口説いてるだけなのに。」


立ちくらみがした。



「社長?そんなんじゃあ、誰も落とせませんよ。」


「嘘?困ったな。こんなことなら誠司にちゃんと聞いとけば良かった。」



「・・・・」




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