押してダメでも押しますけど?
次の日の朝、自分の部屋の扉の前に立っている。


ことの発端は昨日の寝るとき。


「そう言えば、どうして今朝は、俺の事置いて行ったの?」



暗い部屋の中、社長の表情は見えないが、その声は、若干の怒りを含んでいる。


「そ、それは・・・」


社長が前の晩に告白したりするからです!とは言えない。



今朝、いつもより早く目覚めた私は、社長がまだ寝ていたのを良い事に、社長が起きないうちに家を出た。




「社長、会社ではそんなこと言ってなかったじゃないですか?」



そう、社長は、宣言通り会社ではいつも通り振る舞った。私が戸惑うほどに。



「だって、仕事中にそんな話したって『仕事中です』とか言って逃げるじゃん。」


「う・・・」



確かに、その通りだ。



「明日は、一緒に行こう。」


「はぁ?嫌ですよ。」


「何で?」


「変な誤解を受けるじゃないですか。」


「いいじゃない。それに俺が立川さんのこと好きなのはみんな知ってるよ?」


「あ!!それ!!今日、飲んでる時につぐみちゃんに言われたんです!!

 社長の気持ちに気づいてないのは私だけだって!!どういうことですか?」


「え?どう言う事って、立川さんが鈍感ってことじゃないの?」


「・・・・」


「あ、でも岩倉も一緒だったんだろ?岩倉でも気づくんだな。恋愛とか興味なさそうなのにな。」



「そんなことないんじゃないですか、彼氏いますし。」


「え?」


私の言葉に社長が驚く。


「彼氏がいるって、岡林か?」


「何でそうなるんですか、今の流れだと、りっちゃんですよ。」


「はぁ?!岩倉って彼氏いるのか?!」


今度は私が驚く番だ。


「何言ってるんですか?りっちゃんの彼氏、曽根君ですよ。」


「そね??!!営業の曽根か?!」


「知らなかったんですか?それこそみんな知ってる事なのに。」


「知らなかった・・・」


「さっき、私の事鈍感って言ったの、取り消してもらえますか?」



「それより、立川さん、俺の事社長って呼んでるよね?」


あ、話変えたな。


「社長だって、私の事、立川さんって呼んでるじゃないですか。」


「じゃあ、あかりって呼んでいいの?」



しまった、墓穴を掘ったかも知れない。



黙る私に、社長が言った。


「じゃあ、一緒に通勤するか、名前で呼ぶか、どっちかにしよう。」


「意味がわかりません!」


「うん、大丈夫。それよく言われるから。」


「開き直らないでください!!」


「じゃあ、俺、寝るから、明日までに決めといてね。おやすみ。」


そう言って、社長は黙った。


「あ、社長?ちょっと待って下さい。」



それから、何度か呼びかけたが、社長は無言を貫いたため、私も諦めた。
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