押してダメでも押しますけど?
そんなこんなで、私は今、部屋の扉の前に立っている。


只今朝の7時過ぎ。9時が就業開始時間で、ここから会社までは徒歩10分。


そろそろ支度をしないとまずい。



会社に一緒に行くか、名前で呼ぶか・・・


あれ、別にどちらか選ばなくてもいいんじゃない?


というか、選ばなければいけない理由がない。



そう思うと、心が楽になって扉を開けた。



ベットに目をやると、社長はまだ夢の中のようだ。



いつも8時30分には出社してくるから、そろそろ起きる頃だと思う。


よし、今日もさっさと準備して、家を出てしまおう。


そう思って、バスルームに向おうとすると後ろから、声をかけられた。



「今日も置いて行くつもり?」


寝起きのせいか、いつもより低い声に体が跳ねる。



恐る恐る振り向くと、社長はベットの上にあぐらをかいて、そのうえに頬杖をついてこっちを見ていた。


「お、起きてたんですか?」


「起きてたよ。更に言うなら、昨日も起きてたよ。」



「うそ?!」


驚きの真実に声を上げると、社長はため息をついた。



「だから、俺、ショートスリーパーだって言ったじゃん。

 0時に寝たのに、こんな時間まで寝られるわけない。」


「え?じゃあ、何で昨日起きて来なかったんですか?」



昨日は、私が家を出るとき社長はまだベットの中だった。



「起こしてくれると思った」


「え?!」


小さい声で呟かれ、思わず聞き返す。



「だから、起こしてくれると思ったの!!

 『社長、もう朝ですよぉ』みたいな感じで!!」


「そんなことするないじゃないですか。」


「何で?!」


「何でって、社長、遅刻したことないじゃないですか。だから、ご自分のリズムがあるだろうし、起こさない方がいいと思って。」



本当は嘘だ。必死で用意して社長が起きてくる前に家を出た。


「本当に?それにしては出るの早くなかった?」


疑いの眼差しを向けて来る社長。



「つい、いつもの癖で出てしまったんですよ。

 まさか、社長、私が起きてから出るまでずっとベットで寝たフリしてたんですか?」


「・・・・」


沈黙は肯定の証だ。


「何か、すいません。」



何も悪くないのに、悪い事した気分だ。
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