押してダメでも押しますけど?
「悪いと思ってるなら、一緒に会社行こ?」


「行きません。」


「じゃあ、名前で呼んでくれるのかな?あかりちゃん。」



『あかりちゃん』を強調する社長。



「呼びませんよ。」


「俺は、どっちか選んでって言ったよね?」


「言いましたけど、私がどちらか選ばなければいけない、理由がありません。」


「ケチ!」


「ケチでも構いません。」


社長は、これ以上やっても勝算がないと思ったのか、ため息をつきながら、ベットから降りた。


大きめのTシャツにハーフパンツというオーソドックスな格好の癖に、社長が着ると妙に色気がある。


何だか、直視できなくて、目をそらした。


一緒に住むとなると、無駄に見た目がいいのも問題だな。私の心臓が持たない。



「じゃあ、いいや。勝手に後ろから付いて行くから。」


「・・・・社長?それ下手したら変質者ですよ?」


「うん。もし捕まりそうになったら助けてね。」


「・・・・」


やめるという選択肢は彼の中にないようだ。



結局、社長は、本当に私の10mくらい後ろを付いて来た。



その姿を同じ会社の人に目撃され、話が広まったらしく、しばらくは怪訝な顔で見られたけど、別に喧嘩をしているわけじゃないと分かると、今度は生暖かい目で見られる様になった。


みんなの『わかってるよ』的な視線が居心地が悪い。


これじゃあ、一緒に通勤しない意味がない。




社長はそれから毎日私の後ろをついて出勤する。


その後、いつも通り仕事をこなして、バラバラに帰宅。予定がない日は私が夕食を作った。


それから、お風呂に入ったり談笑したりして時間をつぶして、大体日付が変わる頃社長が眠りにつく。

それを確認してから、自分のベットに行く。


そんなリズムになった。




そして、気づけば社長の家に来て1週間が立っていた。
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