押してダメでも押しますけど?
「もう半分が終わっちゃったんだな。」


夕食のとき。社長のリクエストの私のお手製ハンバーグを食べながら社長が言った。


「そうですね。」


あっという間の1週間だった。



今日は土曜日だったから、私は、一旦、自分のマンションへと帰っていた。


空気を入れ替えて、掃除をした。


最近、仕事でも家でも社長と一緒だから、社長のいないことに違和感を覚えた。


この生活も、あと1週間。


どうなる事かと思えた社長との生活は思いのほか平穏なものだった。


1週間で終わると思うと何だか寂しく思えた。



無意識にため息が出る。


「どうした?」


声をかけられて我に返ると、社長が心配そうにこっちを見ていた。



「大丈夫か?」


そう問われて、慌てて誤摩化す。


「あ、はい。大丈夫です。すいません。ちょっと考え事をしてて。」



まさか、この生活が終わるのが寂しいとは言えまい。



「そうか、それならいいけど。」


そう言うと、社長の意識はハンバーグへと戻っていた。


ハンバーグに夢中の社長をこっそり盗み見る。



初日に告白されたけど、それから特にアクションはない。


そもそも、この人は仕事をし過ぎなのだ。



初めの2日間こそベットで寝たフリをしていた社長だったが、それ以降、私が起きてリビングに行くと、すでに社長は仕事をしていた。



3時間寝れれば良いと言っていた社長を思い出す。


確かに、前に比べて顔色はずいぶん良くなった気がするが、社長は今、どれくらい眠れているのだろう?


私は、本当にここにいる意味があるのだろうか?


私を好きだと言った社長。


本当は、あれが社長の気遣いだとしたら?


一般的にはあり得ない気遣いだけど、社長ならありえる話だ。


思いつきでソフレになったものの、思いのほか役にたたないと思われているかも知れない。



そう思うと、心がざわついた。





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