押してダメでも押しますけど?
時計を見れば、午前11時過ぎ。


そろそろ出なければ、土井社長との昼食に間に合わない。


「社長、そろそろ出発のお時間です。」


声をかけると、社長は、チラッと時計を見て、大きくため息をついた。



「・・・・行きたくない。」


小さな声でささやく。


仕方ないのでダメ押しだ。



「抹茶味、美味しいですよ?」



社長は、チラッと私を見上げた後、しぶしぶ立ち上がった。



呼んでいたタクシーに乗り込み、約束の料亭へと向かう。


しばらくすると隣から寝息が聞こえて来た。


忙しすぎる彼は、移動中のタクシーの中で寝てしまう事が多い。



起きていても特に会話も無いから寝ていても問題は無い。


仕事のときも打ち合わせは事前にすませてある。


それに、車のエンジン音に混じってかすかに社長の寝息が聞こえるこの時間が私は嫌いではない。


後10分で目的地に到着すると言うところで社長に声をかける。


「社長、もうすぐ到着になります。」


「ん、俺、寝てた?」


「はい。」


「・・・そっか。」



社長は、私が起こした後、必ず寝ていたか確認する。


どうして確認するのか、この時の私には理解できなかった。



到着したのは、有名な高級料亭だった。



こっちが誘ったのだからと、土井社長が予約してくれていたはずだ。



タクシーを降りると、ちょうど土井社長も到着したところだった。



もちろん後ろにはユリさんも見えた。


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