押してダメでも押しますけど?
最後の話のエンディングが終わって背伸びをする。


「夢中だったな。」


社長がテーブルの上に冷たいお茶を置いてくれた。


「ありがとうございます。」


「いいえ。

 お茶で良かった?何が良いって聞いても『うん』しか言わないから。」


「すいません!」




「いいよ。気にしないで。

 珍しいあかりが見れて楽しかったし。」



「・・・・あの、社長?」


「ん?何?」



「その・・・呼び方なんですけど・・・」



「あぁ、あかりに俺の事を異性として意識してもらおう作戦その1だよ。」


「・・・・はぁ」



初日にあぁ言った社長だったが基本的に呼び方は『立川さん』だったはずだ。たまに思い出した様に『あかり』と呼ばれた気がするけど。


いきなり『あかり』に統一されたのは、そういう訳があったのか。



納得はできたが、理解はできない。



「今日、借りて来たのは1本だけ?」



「一応、もう1本借りてます。」



「じゃあ、明日も休みだし、もう1本見るか。」




今は、日付が変わるちょっと前。もう1本見ると、終わるのは1時過ぎになる。


明日は休みだし、時間的には大丈夫だが・・・




「私は、構いませんけど、社長は退屈じゃありませんか?」



「あかりは、DVDに夢中で気がつかなかったと思うけど、俺だってちゃんと見てたよ。」



「私、そんなに夢中でした?」



「うん。かまって欲しくて話しかけても生返事しか返って来なかった。」



確かに、生返事を返した記憶はある。



「・・・かまって欲しかったんですか?」



「うん。もっと言うなら、俺はいつでもあかりにかまって貰いたい!」




「えっと、それ聞かなかったとこにしても良いですか?」



何と返答したらいいのか困るから、なかった事にしたい。



「何で?俺の一世一代の大告白なのに!!」



叫ぶ社長を無視してDVDを入れ替えるために席を立った。
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