押してダメでも押しますけど?
7 心地良い場所
次の日の朝、私の顔は酷いものだと思う。


推測なのは、まだ鏡を見ていないから。



1週間で身に付いた習慣とは恐ろしいもので、昨晩、私はどこか上の空のまま歯を磨いて、社長の手を握って、寝たのを確認して、自分の寝室までやって来た。



抜群の寝心地のふかふかベットに横になると考えないようにしようと思っても、やっぱり考えてしまうさっきまでのこと。


そもそも結論を出したくないのに無意識に考えてしまうから、悶々として眠れなくなってしまったのだ。


おかげですっかり寝不足だ。



だから、私の今日の顔は酷いと思う。


いくら休日だからと言っていつまでも寝てる訳にはいかない。多分、社長は起きているから。



のろのろと起き上がって鏡を見ると、そこにはやはり酷い顔の自分がいた。



思わずため息がこぼれる。



よく考えれば、最後の彼氏と別れたのは、前の会社で専務の秘書になったばかりの頃だったから、もう3年ほど恋人はいないことになる。



しかし、昨日の事ぐらいでこんなな顔になるくらい寝不足になるとは、私も社長のことは言えないくらい恋愛音痴なのかもしれない。



時間を確認すれば、朝の8時。



普段の休日なら洗濯機をまわしながら、もう一度ベットでゴロゴロしている時間だ。



だが、社長と一緒に暮らしているからにはそう言う訳にはいかないだろう。


気休めにもならないが、軽く髪の毛を整えてリビングへ向った。



案の定、社長はもう起きていて、仕事をしていた。



「社長、おはようございます。」


私の声に社長がこちらを向いた。とたんに社長の顔がギョッとなる。



「お・・・おはよう。」


「どうかしましたか?」


「あ、あかり?」


「はい?」



「体調悪いの?」



「いいえ。」



確かに寝不足だが、体調は悪くないと思う。



「でもさ・・・・」



「何ですか?」



「顔、酷いよ?」



空気がピシッと凍りついた。




< 62 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop