押してダメでも押しますけど?
「一緒に行くだろ?」


とのお誘いに頷いた私は、自分の部屋に戻ってピタッと動きを止めた。



服、どうしよう?



私服で社長を出かけるなんて今までになかったことだ。



引っ越して来た日は、引っ越しする為に汚れても良い動き易い格好だったから何も考えてなかった。



でも、今日は・・・。


目的地は近くのパン屋だ。


たかが近くのパン屋。されど近くのパン屋だ。



何たって、隣を歩くのはあの社長だ。



今までの経験上、社長はただ歩くだけで、その辺にいる女性の視線を釘付けにする。


普段は、仕事として側にいるから、その視線にも慣れてしまったが、今日は違う。



プライベートで社長の隣を歩くわけだから、必然的にも私は、恋人に見られ・・・



いやいや、妹?いや、それも顔が似てなさすぎる。



そこまで考えて大きなため息が出た。



そのとき、コンコンとドアをノックする音がした。



「あかり?大丈夫か?」


「はい。すぐ大丈夫です!!」


部屋に入ってから5分も経っていない。



アラサーの女がそんなに早く用意できるわけないじゃん!!



内心、毒付きながらも何だかアホらしくなって、目の前にあったワンピースを手に取った。



軽くメイクをして、髪をシュシュでまとめる。



準備が整ったので、リビングへのドアを開いた。



「お、用意できたか。」



社長は、黒いポロシャツにベージュのチノパンだった。


シンプルな姿も様になる。



「・・・・」



「どうかしたか?」



「ナンデモアリマセン。」



ほんと、顔が良いズルいと思う。
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