押してダメでも押しますけど?
社長のマンションから出ると、社長が手を差し出して来た。


気づいたら、何の抵抗感もなくその手を取っていた。



5分もかからず着いたのは、可愛らしい外装の小さなパン屋さんだった。



「ここだよ。」



社長に促されて中に入るとパンの良い匂いがして、種類は多くないが、美味しそうなパンが並んでいた。


「俺のおすすめはクロワッサンサンドかな?」


「じゃあ、1つはそれにしますね。」


ふと、周りの視線に気づく。



こっそり辺りを盗み見ると、周りのお客さんの視線が社長に釘付けになっている。


やっぱりこうなったかとため息をつくと、自分を見ている視線にも気づいた。



その目に悪意はないものの、強いて言うなら、『え?この人の相手があなた?』みたいな、納得言っていないような感じだと思う。



まぁ、そんなことは私が一番良くわかっているから、異論はない。



そんな視線を全く気にすることなく社長は次々にパンをトレイにのせて行く。



「そんなに食べるんですか?」


「え?だって、ここのパンはびっくりするくらい美味いんだぞ?

 あかりだって、1個や2個じゃ足りないよ。」



社長がそう言って笑うと、周りからため息が溢れた。



最近、見慣れてしまったけど、確かに社長の笑顔ってため息が出るほどかっこいいと思う。


まぁ、中身は変態オタクだけど。



「ほら、あかりも選べよ。どれ食べたい?」



なんて無邪気に言われ、クリームパンとブルーベリーのデニッシュを選んだ。



会計を済ませ。店を出ると、社長の手が私の手を捕まえる。


私も、それに異議を唱えることはなかった。



特に会話もなく、社長のマンションまで歩く。




部屋に入って、さっそく袋からパンを取りだそうとする社長に声をかける。



「手を洗って下さいよ。」


「ケチ」


ケチではない。社長に体調を崩されては困る。


それ以前に、外から帰ったら、手を洗うのは常識だと思う。



しぶる社長に手を洗わせ、テーブルにくつ。



「「いただきます」」



パクリとかぶりついたクロワッサンサンド。


さくさくのクロワッサンになかに挟んである野菜がシャキシャキで


「美味しい!」


思わず声を上げると、社長は満足そうに微笑んだ。


「美味いだろ?」


「はい!」


「どれ食べてもいいから、たくさん食べろよ?」


社長がそういって次々袋からパンを取り出す。


「そんなに食べられませんよ?」


そうは言ったものの、結局3つも食べてしまった。



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