押してダメでも押しますけど?
「どっか行きたい所はあるか?」


食後のコーヒーを飲みながら、社長に聞かれた。



「行きたい所ですか?」


「そう。せっかくだからデートしよう。」


「デート・・・」



私が、悩んでいると、社長が悲しげな顔でこちらを見て来る。




「嫌か?俺とデート・・・」


「え?あ、すいません!

 そうじゃないんですけど。ここ最近デートなんてしてないので、いまいちピンと来なくて。」


「そうなのか?」



「そうですよ。」


「なんだ、あかりも結構寂しい女だったんだな。」



その言葉にカチンと来た。


「じゃあ、社長は、最後にデートに行ったのはいつですか?」


「・・・・忘れた。」



「人の事言えないじゃないですか!」



「・・・・・」



部屋に、変な沈黙が流れた。


「ドライブでも行くか?」


「え?社長、車持ってるんですか?」



「持ってるよ。」


徒歩で通勤してるから、知らなかった。



「じゃあ、ドライブで海でも見に行って、美味しいラーメン屋知ってるから、そこで食って帰って来るか?」


「はい。」



そこまで、行って社長は何かに気づいたようだ。



「あ、フレンチとかの方が良かった?」


私は、首を横に振った。


「ラーメン好きなんで、ラーメンがいいです。」


そう言うと、社長はホッとしたように笑った。



「俺も、ラーメン好き。」


その笑顔に胸がキュンとする。



この人は、いったい何回人の胸をキュンとさせれば良いんだろう。


無自覚なだけに、質が悪い。




動揺を社長に悟られない様に繕って一旦部屋に戻る。






それから準備をした私たちは、社長の車で海へと向った。
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