押してダメでも押しますけど?
車に詳しくない私には、社長の車がどこの物なのかなんてさっぱり分からなかったが、左ハンドルだったから、外国産であることだけは確かだと思う。


コンビニで飲み物だけ買って、カーナビをセットする。


「1時間くらいかかるらしいけど、車酔いと大丈夫か?」


「大丈夫です。」


「よし、じゃあ出発だ!」



運転中の社長を横目で盗み見る。



ハンドルを握る社長の手は、ちょっと筋張っていて指が長い。


実は、手フェチの私のドストライクの手なのだ。



何度も何度も繋いだ手だけど、じっくり観察するのは初めてで、思わず釘付けになってしまう。



「何か付いてるか?」


「え?いや!付いてません。」



手を見てたがバレて狼狽えてしまた。



「あかりって手フェチ?」


「え?」


ずばり当てられ、さっきよりも狼狽える。


「いや、だって、すっごい見てるから。」


「フェチってほどじゃありませんよ」



苦し紛れに言い訳する。


すると社長はクスクス笑いながら、右手を差し出して来た。


ちょうど信号が赤になって車が停車した。



「まぁ、遠慮すんなって、思う存分触って良いから。」


そう言われ、思わず手が伸びた。


いつも繋いでいる手だけれど、改めて見ると、本当に綺麗だ。



「爪も綺麗ですね。」


キーボードを打つ為か、短く切りそろえられた爪は、形がそろっていて綺麗だ。



思わず、指先で社長の爪を撫でる。


ツルツルしていて癖になりそうな触り心地だ。



その時、社長の体がビクッと跳ねた。



「社長?」



どうしたのかと呼びかければ、なぜか社長の耳は真っ赤だった。


「どうかしましかた?」



「いや、何でもない。」



絶対にこっちを向こうとはしない社長。


不思議に思っていると、信号が青になった。



「信号、変わったから。」


遠回しに手を放せと言われ、手を放す。



妙な雰囲気に何か悪い事でもしたかと不安になるが、何がいけなかったかさっぱり分からない。




「あの、私、何か気に障る事しましたか?」



私が聞くと、社長はため息をついた。



「あかりってさ、魔性の女だったんだな。」



そういわれ、ますます分からなくなった。
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