押してダメでも押しますけど?
それからの海に着くまでの間、社長は鼻歌なんて歌ってご機嫌だった。


私はというと、社長がご機嫌なのが気に入らず、窓の外ばかり見ていた。



「着いたぞー。」


エンジンを切って、車から出る。



冷房の効いた車から出ると、海の匂いがした。


まだ海開きもしていない海岸は人の姿はまばらだ。



「で、結局、海に何しに来たんだ?まだ泳げないみたいだぞ。」



社長の間抜けな発言に呆れる。


「何言ってんですか?海を見に来たんでしょ?」



「え?見るだけ?」


「じゃあ、社長は、何で海に行こうって言ったんですか?」


「ドライブといえば、海だろ?」


「じゃあ、つべこべ言ってないで、行きましょうよ。

 足つけるくらいなら出来ますよ?」


そう言って、社長の手を取って海の方へと向った。



サンダルを脱いで、海に入る。



気温は高いが、海開きもしていない海の水は冷たかった。



「冷たくて気持ちいいですよ。

 社長も来ませんか?」


私が脱いだサンダルの横に座っている社長に声をかける。


「いや。俺はいいや。

 それより、あかり。スカートもうちょっと上げたが良いぞ〜」


「え?濡れそうですか?」


「いいや。そっちの方が、足がよく見える。」



「・・・・」



私は無言でスカートを下げた。



社長は、そんな私を見て笑っている。



時間は4時を回ったところ。



まだまだ日は高いものの、空は赤くなりはじめている。



足が冷たくなって来たので、上がる事にした。



「すいません、社長。わたしのバックの中からタオルとってくれませんか?」


「タオルまで用意してたのか?用意周到だな。」


そう言って、社長はタオルを取り出した。



社長に近づいてタオルを受け取ろうとすると、いきなり社長にお姫様だっこされた。



「きゃっ!」


とっさに社長の頭に抱きつく。


「何するんですか?」



「だって、足拭かないと。」


「自分で出来ます!!」



「いいから、いいから。」



社長は、私の抗議を無視して、近くの岩に座らせた。

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