押してダメでも押しますけど?
それから、二人で海を眺めた。


海が夕日に染まる頃、社長が腰を上げた。


「そろそろ帰るか。」



そう言って差し出された手を取る。



強い力で引っぱり起こされ、バランスを崩して、社長の胸に飛び込んでしまった。


「すいません!」


慌てて社長から離れる。


「いいよ。わざとだから。」


「は?!」


言っている意味がわからず、社長を見れば、社長はいたずらっ子のように笑っていた。



その笑顔で、意味を理解した私は、思わず社長の足に蹴りを入れた。



「イッテ!!蹴った!今、あかりが俺の事蹴った!!」



「当たり前です!!」


「どうしよう!痛いのにちょっと嬉しい。」



「・・・・・」


立ちくらみがして来た。



「俺、Mに目覚めちゃったかも?」


「ヨカッタデスネ。」


「え?良かったの?あかりってS?」



相手にするのがバカらしくなって、砂をはたいて車の方に歩く。



「え?ちょっとあかり!待ってよ。」



社長を無視してスタスタ歩くが、足の長さが違うため、あっという間に追いつかれる。



無言で歩く私の隣を社長が歩く。



「あかり?」


「・・・・・」


「あかりちゃん?」


「・・・・・」



「おーい。あかりさーん。」



隣でうるさい!




立ち止まって社長の方を向く。



「怒った?」


「はい。」


「嫌だった?」


「っ!・・・からかわないでください。」


その返答に社長がニッと笑う。



「かしこまりました。」



その返答に腹が立った私は、再び無言で歩き出した。



社長も無言で後を付いて来る。






『嫌だった?』と聞かれ、『はい』とは答えられなかった。



どうやら私は、社長に抱きつかれても嫌じゃないらしい。
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