押してダメでも押しますけど?
無言で車に乗り込むと、社長も無言で運転し始めた。


社内に沈黙が流れる。



「今日の晩飯、本当にラーメンで良いの?」


「はい。ラーメン好きですから。」



「フレンチとかも美味しいこと知ってるよ?」


「そんなんは誕生日とかで大丈夫です。」


私がそういうと、社長はちょっと顔を歪ませた。



「?」


その表情の意味がわからず社長を見つめると、社長は私の視線に気づいて、少しだけ困った様に笑った。



「あかりはさ、子どもの頃の誕生日ってどんなんだった?」


「え?子どもの頃ですか?


 そうですね・・・・小さい頃は、お母さんがケーキを焼いてくれて、プレゼントがあって・・・みんなでごちそうを食べるんです。


 小学校に上がったら友達を読んで誕生日パーティーをしたりしましたね。」



『どうしてそんなこと聞くんですか?』そう聞こうとして社長を見て、私は何も言えなくなった。


社長の目がとても悲しそうだったから。



「しゃちょう・・・」



「俺はさ。俺の誕生日はいつもばあちゃんと一緒だった。

 俺の家は、病院を経営しててさ。親父もお袋も医者で、じいさんは医院長やってて。みんない忙しくて、誕生日を家族全員で祝った事何てなかったな・・・


 昔はさ、それでもみんなに認めてもらいたくて、勉強頑張って、医者目指してたんだけどな・・・

 たまたま行った夏休みのイベントで、簡単なゲーム作って、プログラミングが面白いと思って・・・初めは趣味だったのに、気づいたら仕事にまでしたくなって。


 俺、弟がいてさ、親父もお袋も何か、その弟には甘くてさ。

 俺が継がなくてもいいかなんて思って、実際、親父もお袋も反対しなかったよ。『好きにすればいい』って。

 でも、ばあちゃんだけは違ったんだ。俺が医者にならないって聞いたとき、すごい悲しそうな顔したんだ。


 俺は、誰よりも大切な人の期待を裏切って今の職に就いたんだ・・・・」




あぁ、だからこの人は寝る間を惜しんで仕事をするんだ。


きっと、その罪悪感から逃れる為に。



そう思うと、胸がギュッと締め付けられる。



車内に重い空気が漂う。



「悪い。何か、変な空気になったな。

 ラーメンの話だったのにな。」


私は首を横に振った。



「社長の話が脱線することはよくあることなので気にしません。」



笑ってそう言うと、社長は少し驚いた顔をした後、笑った。




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