押してダメでも押しますけど?
洗面台にうつる自分の顔は真っ赤だった。

ここ数年、ほんとに恋愛からは遠ざかっていたから、免疫が最低値まで落ちている。


「はぁー」


ため息をついてから、顔をジャブジャブと勢いよく洗った。



「お先でしたー。」

「んー」


社長に声をかけながらリビングを通り過ぎて、自分の部屋に入る。


素早く出勤の用意をして、部屋を出た。



「え?もう出るの?」


私の格好を見て、社長が驚いた。


「あーはい。」


「そんなに急ぎの仕事あったっけ?」


「いや、近くのコーヒーショップの新作メニューを飲もうかと思いまして・・・」


我ながら苦しい言い訳のような気もするが、なんとなく顔を合わせづらいとは言えない。



「えー、それなら俺も誘ってくれればいいのに~」


「すいません。」


文句を言う社長を見ると、目があった瞬間ニヤッと笑われた。



その笑顔が無性に腹立つ。


「では、お先に失礼します。」


あえて堅苦しい言い方をして、部屋を出た。


「ほーい。いってらっしゃーい。また後でねー」


後ろから社長ののんきな声が聞こえた。




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