暮れのハウス
前置きという御託
東京某所

八月の蒸し暑さが、道行く人を苛立たせる。
日本の夏は温暖化の影響なのか毎年暑くなっている気がする。
燦々と照りつける太陽をこんな、鉄臭いコンクリートジャングルで味わいたい奴などそうそういるまい。
どうせなら可愛い女の子を引き連れて、湘南辺りで羽目外したい、それが本音だ。
しかし、それさえも夢のまたは夢。
おれの名前は川添翔太(かわぞえしょうた)。
職業、自宅警備員。又の名をニート。

Not in Education, Employment or Training, NEET

正式名称はこうだ。

2020年、夏。
俺はエリートから一転、社会のゴミへと転落した。
俺の人生はこのままモグラの様に地下深い暗い場所で終わるのか?
いや、違う。
これは偶然か、必然か。
燦々と照り付ける光。
アスファルトは蜃気楼を作り出す。
「お前みたいなくずを探していた。私が奴隷として買い取ってやる」
今まで聞いたことが無い新鮮な嫌味が、俺の鼓膜を貫ぬいた。
声の主は、まさに絶世の美だった。
「イエス」
答は他に無かった。

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