暮れのハウス


何故、俺がこんな風に小夜子に反抗もせずに虐げられているのか。
答えは実に簡単。金になるからだ。
ニートと呼ばれる社会のくずにはハッキリ言って収入など無い。
むしろ支出ばかりでどんどん底辺へと突き進んでいく。
信じられんが本当だ。
しかし、親にはプライドが邪魔をして頼れない。いや、頼るなんて俺にとっては屈辱以外の何物でもない。
今まで連絡もまともにせずにいたのは、会いたくないという理由に尽きる。
しかも皮肉なことに親の期待通りに入った会社より今の方がよっぽど稼ぎは良い。
、報告したところでどうなるというのだろう。
少女に叩かれて稼ぎを得る俺を嘆くのか、それとも恥じと感じるのか、どちらだろうと思う。
そんな俺は今、小夜子の爪を磨いている。
細く長い指の一本一本を優しく手に持ち、やすりで磨いてトップコートと呼ばれるマニキュアを塗る。
今度は足先。小さい足をひざまずく俺の大腿部にのせ、赤い色を乗せていく。
この作業は好きだ。だまにならないように、綺麗に塗れると達成感を感じる。
昔やったプラモデルの塗装の要領で出来る。
「翔太はこれを塗るのは上手だな」
集中していると、小夜子が俺の髪を撫でてにこりと微笑む。ゾワゾワと背筋から嬉しさが込み上げる。
決して顔には出さないが、小夜子も誉めてくれるから、余計嬉しくて頑張ってしまう。
「べつに…大したことじゃない」
「ふむ、そうか? わしは結構気に入っているがな」
小夜子が首を傾げる。
満足そうに指先がキラキラ輝くのを見て目を細める仕草は色っぽい。
ネイルが乾いてか、彼女は俺の顎をくいっと上げると言った。
「褒美だ」
唇に柔らかい感触。
心の底から思う。
ネイル、もっと頑張ろう。と。



今日の小夜子は機嫌が悪い。恐い顔して、俺を睨み付ける様は鬼のようだ。俺は膝まずいた。叩かれるときは素直に顔を差し出さないといけないらしいから。静かに主人が言った。
「翔太、ヘマをしたな、仕置きだ」
俺はまた小夜子に打たれる。またアザが出来た。別に何もしていないが、行きなり俺が置かれている部屋に入るなり首輪を引き、棒で叩く。口答えはならないから小夜子が謂うまで黙ってなきゃならない。
「お前、この部屋から出たのか? 出てはならんと言ったはずだろう。わしの言うことが何故聞けんのだ」
「出ていない、です。いっ…止めろっ!」
「黙れ、東京湾に沈めるぞ。敬語を使え、くずのくせに。くそ、茅子(かやこ)にお前の存在がばれた。面倒な…」
溜め息をつく小夜子。そして棒を投げ捨てると、今度は「すまんな」と一言。頭を抱えながら、うつむく主人はポツリとまた言った。
「まったく、めんどくさい女に見つかりおって…馬鹿めが」
よっぽど、嫌な存在なのだろう。
小夜子はこの世の終わりみたいな表情をした。
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