勿忘草
ゲーム

「あの時は楽しかった」

あの頃は……

あの日まで、は。

その日は突然おとずれたんだ。

ある夏休み。もう寝ようと思った時だった。

携帯の受信音が部屋中に鳴り響いた。

「なんだ?」

その時はもう二十三時半をまわったところだった。

「こんな時間に誰が…」

そう言って携帯の通知を見るとあいつの名前。

この時間に起きてるなんて珍しい、そう思いながらメールをひらいた。

本文を見て、俺は声を出せなかった。

『夜遅くにごめんね。私は今とある場所にいるんだ!
君には今からゲームをしてもらいたいの…私を、見つけて?
12時になったら君の負け、私はこの世界から消える。
それまでに見つけてくれたら君の勝ち、なんでも言うこと聞いてあげるw
いきなりで多分ついていけないと思う、ごめんね? でも、これは本気のかけなんだ
時間は日付が変わる、零時まで!
それじゃあ、よろしくね。

……待ってます。』

そんな内容だった。

俺の頭の中は真っ白だった、ゲーム? かけ? 消える?

意味がわからなかった。あいつは何を思い何をしているのかと。

でも、とりあえずはあいつを探さなければと思った。

あいつが行きそうな所、消える…

「あそこか!!!!」

俺は走った、何も持たずに走った。

確信はあった、あいつは絶対に展望台にいると。

そして展望台に着くと普段は閉まっているドアが空いていたので正面から入れた。

俺はそこからも走って走って走った。

時計も携帯も持ってこなかったせいで時間は分からなかった。

「はぁ、はぁ、おい!!!!!」

最上階に着いた時、あいつは確かにそこにいた。

1人で空を見上げて立っていた。

俺が安堵の息を吐こうとした時

「ブー、時間切れ」

「は?」

俺が時計を見ると針は12より右に傾いていた。

俺はゲームに負けたのか? そもそもこんなのはゲームなんかじゃない…

「おい! 冗談だよな? 嘘だよな? こんなのゲームじゃねーもんな!!」

「ごめんね、私の勝ち。最後に大変な役を押し付けちゃったね。
最後に君の顔が見たかったの。
見つけてくれてありがと、バイバイ」

そしてあいつは、俺の前から消えた。

俺の前だけじゃなく消えてしまったんだ。

「なぁ、嘘だよな? 嘘だっていえよ、こんな冗談よりそれよりってもっと笑える冗談いえよ…」

俺は動けなかった、ただ叫ぶだけだった。

俺が動けばもしかしたら間に合っていたかもしれない。

もっと早く走れれば。

くそっ、くそっ、くそっ!!!!

「命ーーーーー!!!!!!」

俺はあいつの名前を大声で叫んだ。

「めいっ、めい…命!!」

その声はあいつには届かない。

その場にはただ、俺の声とずーっと気づかなかった携帯の受信音だけが響いていた。
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