あのころ

ぶーん

遠くでお題目の声が聞こえる。どうもそれは手術室の電源の音だったようだ。
私は間違いなくお題目の音で目が覚めた。

『ブーン』
誰かがどこかで私のためにお題目を上げてくれている。
『ブーン』
間違いないお題目の音だ。目を開けようとするが明かりだけで何も見えない。

はっきりと声が聞こえた。
「あ、めざめたぞ!」
「ほんとだ。護符護符」
「飲み込めるか?」
「大丈夫だ」
「足が震えている。酔い覚めだなこれは」
「ははは。よかったよかった」
「よう助かった」
「使命があるんじゃ」

笑い声が響いて私も微笑もうとしたが、
顔がひきつって笑えない。

痛みはないがあちこち麻痺している。
麻酔のせいか頭が朦朧としている。

「こいつ笑っとるぞ」
「もう大丈夫や」
また笑い声が響いた。
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